青空文庫を無料でオーディオブックにする——夏目漱石も太宰治も、耳で聴ける

高校の教科書で読んだ『走れメロス』を、30歳で耳から聴き直したら全然違う話だった

太宰治の『走れメロス』。国語の教科書に載っていた。テスト前に読んだ。「メロスは激怒した」で始まるやつ。内容は覚えていない。試験に出る場面の要約だけ頭に残っている。メロスが走る。セリヌンティウスが待つ。友情は美しい。テスト対策の記憶。

30歳になって、ふと聴き直してみたくなった。きっかけは忘れた。たぶん誰かのツイートで太宰治の話が出て、「あれ、ちゃんと読んだことないかも」と思ったのだと思う。

青空文庫を開いた。太宰治のページ。作品一覧がずらっと並ぶ。『走れメロス』をクリック。あの有名な冒頭が画面に表示される。

でも読む気力がない。夜の11時。スマホの画面で明朝体の文学作品を目で追う元気がない。

CastReaderのアイコンをタップした。

「メロスは激怒した。必ず、かの邪知暴虐の王を除かなければならぬと決意した。」

AI音声が読み始めた。耳で聴く太宰治は、目で読む太宰治と全然違った。

文章のリズムが聞こえる。太宰の文体って、短い文と長い文が交互に来る。ぶつ切りの短文で緊張を作って、ふっと長い文で解放する。「メロスは激怒した。」7文字。次の文は30文字以上ある。このリズムは、目で読むと流してしまうけど、耳で聴くとはっきりわかる。

その夜、ベッドの中で『走れメロス』を最後まで聴いた。20分くらい。テスト対策の記憶とは全然違う物語が耳から入ってきた。メロスの苦悩、途中で諦めかける弱さ、それでも走り続ける理由。高校生の僕は物語の表面だけなぞっていた。30歳で聴き直して、人間の弱さと強さの話だったんだ、と初めて理解した。大げさじゃなく、そう思った。

翌日から青空文庫を毎晩聴き始めた。

夏目漱石の『坊っちゃん』。有名すぎてちゃんと読んだことがなかった。全部聴いた。2時間くらい。坊っちゃんの毒舌が音声で聴くと映える。「赤シャツ」「野だいこ」——登場人物のあだ名が耳に残る。

芥川龍之介の『羅生門』。これも教科書。でも教科書で読んだときは「まあ、暗い話だったな」くらいの感想しかなかった。音声で聴くと、下人の心理描写のじわじわした恐ろしさが伝わってくる。芥川の文章は一文が長いけど、AI音声が適度に区切ってくれるから、意外と聴きやすい。

宮沢賢治の『注文の多い料理店』。子供のとき絵本で読んだ記憶がある。大人になって聴くと、ユーモアとホラーの絶妙なバランスに気づく。「どなたもどうかお入りください。」の不気味さ。

青空文庫には17,000以上の作品がある。全部著作権が切れているから無料。CastReaderも無料。つまり17,000冊の日本文学オーディオブックが、ゼロ円で手に入る。

Audibleで太宰治や夏目漱石を探すと、プロの声優が朗読したオーディオブックがある。1冊1,500円とか2,000円。声優の朗読は間違いなく素晴らしい。でも「内容を聴く」だけなら、CastReaderのAI音声で十分だと僕は思う。17,000冊を1冊1,500円で買ったら2,500万円。ゼロ円でいい。

使い方は簡単。青空文庫で読みたい作品を開いて、CastReaderのアイコンをクリック。それだけ。青空文庫の作品ページは構造がシンプルだから、CastReaderの抽出精度が高い。本文だけを正確に読み上げる。

一つだけ注意がある。青空文庫はルビ注記を独自の記法で入れている。「漱石(そうせき)」みたいな形式。CastReaderはこれをそのまま読むことがあって、「そうせき」が二重に聞こえる場合がある。頻度は低いし、聴いていて内容理解に支障はないけど、気になる人は気になるかもしれない。

寝る前の30分を青空文庫の時間にして、3ヶ月。読んだのは太宰治5作品、夏目漱石3作品、芥川龍之介4作品、宮沢賢治2作品、中島敦の『山月記』、梶井基次郎の『檸檬』。全部、高校の教科書で名前だけ知っていた作品。30歳で聴いて初めて「ああ、これが名作と呼ばれる理由か」とわかった。テストのために読んだ10代では見えなかったものが見える。

CastReaderはChromeウェブストアから。無料。寝る前のスマホの時間を、SNSから文学に変えるだけでいい。17,000冊が待っている。